かぜがふわりと

「クルミのセパレートタイプの食器棚のオーダー」

所沢 F様

design:Sさん
planning:daisuke imai
producer:kouhei kobayashi
painting:kouhei kobayashi

クルミのセパレートタイプの食器棚

リビングから食器棚を見た時の様子。吊戸棚が明るいのです。


クルミのセパレートタイプの食器棚

吊戸棚が軽く見える印象は、背板のない明るさや格子扉の他に天井の抜け具合があると思うのです。Fさんのリビングは2階でさらに屋根裏を作らなかったので天井が高いのです。たあ、天井の形がそのまま表れていて変形して見えるのでした。最初は、その天井に合わせて上までピッタリに作る形でお話が進むこともあったのですが、その分に係るコストと、リビングから見た時の吊戸棚の印象が重くなってしまうことを考えて、壁が垂直に立っている部分までで高さを抑えることにしたのです。おかげさまでとても軽い印象にまとまったのです。

Fさんのところにとても久しぶりに伺うことができてようやく食器棚を使っている様子の写真を撮ることができたのでした。
ということで、昔を思い返して、Fさんの食器棚を作った時の様子をお知らせしたいと思います。

確か最初の相談は、「ちょっと変わった設置場所なのです。」って、Fさんはそう言っていたと思うのです。
食器棚を作るにあたって、「吊戸棚をつけたいけれど、ちょうどその位置に窓があるんです。」って。

なので、最初は窓を避けて、コンパクトで高さの低い箱を付つけようかとか、外からあまり見えない位置の窓だから、思い切って窓を塞いで大きな戸棚にしたらどうか、などといろいろなお話になったのですが、コンパクトなサイズだとかえって使いにくくて、せっかく作るのに意味がなくなっちゃいそうだったし、窓を塞ぐというのは、湿気などのことを考えるとメンテナンスができないのはどうにもよろしくないですし、どうしようかなと悩んでいたのです。

クルミのセパレートタイプの食器棚

吊戸棚の格子は幅25ミリ、隙間は11ミリで作っています。中が見えすぎず、通期もできて気持ちの良いサイズ感にできました。

そんなあれこれ悩みながら、ふと思いついた形がありました。
背板のない戸棚でした。
うまくいくかどうか詳しいことは現地を確認してみないと分からないのですが、魅力的な形になりそうだし、どうにかなるかな、と。
すごく素敵な形になりそうで、Fさんも賛成してくださって、せっかく窓をのそのまま家具の中に生かせるなら、通気よく使いたいですね、というお話にしろがっていきまして、「では、風がふわりと流れるような形にしましょう。」ということになったのでした。

クルミの格子扉のある吊戸棚

吊戸棚を下からのぞくと、このような感じ。扉2枚分の幅が水切り棚のようになっています。直径13mmのステンレスパイプを並べてこの棚を実現しています。

問題は必要最小限に入れたい背板の代わりとなる補強をつける位置に壁の下地があるかどうか・・。
そして、背面の補強だけだと重たい吊戸棚が強度不足で傾いでしまう可能性もなくはないので、側面にもきちんとした壁があるかどうか。

クルミの格子扉のある吊戸棚

水切り棚のある右側ではなく、左側の扉を開けた様子。後ろから入ってくる陽射しがとても明るい。

大まかなイメージをまとめて、Fさんのお宅を訪ねます。
うん、どうにかなりそうです。
窓のサイズを考慮しても吊戸棚が必要以上に変わったサイズにすることなく、自然な感じのバランスで作ることができそうです。
また、通気を良くするために扉を全て格子にする、というのもとてもよくまとまりそうで、Fさんから提案があった水切り棚のように使えるスペース、というのもうまくいきそうです。
この水切り棚ですが、市販品を使うわけではなくて、ステンレスのパイプを1本ずつカットして、板に差し込んで作るのですが、こういうふうに吊戸棚の背板もほとんどなくて、地板も一部分断されてパイプになってしまう、となると、やはり一番剛性があるのは、正面のみ開いていて他は板で塞がっている形ですので、箱自体の強度がどんどん弱くなっていくのです。
うまく強度を保てる形にしないと、家具として納品できても、使っているとだんだんと歪みが出てきて扉が傾いたりする可能性も出てきます。

お話が変わってしまうのですが、むかしのお仕事で世帯数の多いマンションの作り付けの棚をたくさんつける、というお仕事をしていたことがありました。
また、皆さん一人一人から家具のオーダーをいただけるようになる前の時代のお話です。
板の状態ですでに各住戸に搬入されていて、大工さんが角スタッド(壁を支える柱です。)を立てているだけ状態でシステム収納を組み立てていくという仲間づてに頂いた仕事をずいぶん昔に手伝ったことがあります。
今もそうですが、その頃もマンションがどんどん建っていて、そこには安価で作りやすいシステム収納が導入されているマンションが多かったのです。
床がない状態で、収納の箱をどうやって固定するのかというと酢のスタッドという柱に宙吊りの状態で固定していくのです。
それほど大きな収納ではなかったので、1日でたくさん取り付けていく、というお仕事だったのですが、インターネット空家具の相談をいただくようになってしばらくした頃に、ダイニングの収納の相談をいただいたことがありました。
その方もお部屋に伺って、収納の話をまとめて帰ろうとした時に、相談されたことがありました。
「イマイさん、この物入れをちょっとみてもらいたいのですが。」と言って見せてくださったのが、廊下の壁に埋め込まれるようにして作られた物入れでした。サイズは結構大きくて、幅900ミリを超えていたでしょうか。高さは私の背よりも少し大きかったから2000ミリくらいでしたでしょうか。
ぱっと見ると扉は少し傾いていました。
そして、扉を開けるとたくさんの本がぎっしり。
たくさんの本をお持ちの方で、その物入れにはいろんな雑多のものを入れる、というよりは本棚として活用されていたのでした。そして、その本の重さで収納自体が傾いてしまって地板が床にめり込んでいるような状態だったのです。
そう、床がない状態で宙吊りで付けられたこの大きな収納は、本の重さに耐えられなくて、床よりも下がってしまっていたのでした。
システム収納は縦の板と横の板の接合が簡便になっているので、箱自体の強度があまり大きくないのです。そこに重いものを収納したから箱が徐々に歪んでいってしまったようです。
「これは、おそらく床の補強がないと思いますので、まずは管理人さんにご相談いただけると良いかと思います。」とお伝えして、どうにか良い方向に話が進んだのだそうですが、箱は板同士の接合がきちんとしていないとすぐに歪みます。
歪みを拾った扉は傾きます。

後々そういう歪みが出ないような形を考えないといけないので、板を少なくした形を考えようとする時に、ふとあの傾いた物入れが頭に浮かぶのでした。

クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


クルミのセパレートタイプの食器棚

引き出しの様子。


根菜収納引き出し

そしてちょっと変わった引き出し。前板の一部を通気できるように格子にしているのです。


引き出しには仕切り板を入れて

それで、なぜ通気できるようにしたかというと、ここに根菜をしまいたかったのです。なので、引き出しの前後で分けて収納できるように、抜き差しできる仕切り板を入れて、というふうに考えていたのですが、5年経ってここは別の使い方がされていました。でも別の使い方ができる形で良かったのでした。

そのような思いがよぎりましたので、今回は背面と右側面をうまく活用してしっかりと強度を出せそうでしたので、イメージ通りに背面と地板の一部を抜いて制作することにしたのでした。
でも、こうしてよかった。
明るくて気持ちの良い吊戸棚にすることができて、まるで風の流れが見えるような心地よい場所になりました。
食器棚の下部収納の形は、シンプルに引き出しをメインに形を考えていきました。
その中に一部ちょっと変わった引き出しを設けたり、炊飯器を置いておけるスライドテーブルを設けたりして。

炊飯器用スライドテーブル

炊飯器をしまうためのスライドテーブル。


食器棚の扉を開けると籐の籠

ここだけ、わざわざ引き出しにしまう必要のない大きなものや本などがしまえるようにと扉にしておいたのでした。

こうして思いが詰まった食器棚は、搬入にあれこれ頭を悩ませましたが、(2階のリビングで、階段が回り込んでいく形でさらに手摺が干渉しそうでなかなか大変だったのです。)無事に設置が完了しました。
「イマイさん、次はこのダイニングテーブルを作りたいって思っているんです。またタイミングが来たら相談させてくださいね。」
って、あの時聞いた言葉は、5年後の今再び耳にしていたのでした。
「イマイさん、今度こそはこのテーブルをあの食器棚に合わせた形で作りたいって思っているんです。ぜひ相談させてくださいね。」
5年経って作らせて頂いたのは、Fさんのお宅のダイニングテーブルではなく、Fさんのお母様のテーブルや椅子だったのです。(そのお話はまた今度。)
そして、またこの懐かしいセリフをお聞きしたのでした。
時間が経つのは早いですね。
機はそうして熟されていくのです。
Fさんの三度目のお声が掛かるのを気長にお待ちしております。

久しぶりにお会いできたFさんからお土産として頂いた北欧の歯ブラシ(歯科衛生士さんなのです。)で、普通に磨いているだけなのになぜものすごく口の中が泡立っちゃってオロオロしながらそんなことを考えておりました。

格子扉のあるクルミの食器棚

価格:670,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は35,000円から)

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