町の空気、やさしく暮らして

「クルミとステンレスバイブレーションのコの字型キッチン」

石神井 U様

design:Uさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:hiroshi ito/iku nogami
painting:iku nogami

クルミとステンレスバイブレーションの変則的なコの字型オーダーキッチン
キッチン全体の様子。クルミの表情がとても良いとUさんがうれしそうに言ってくださったこのバックパネルの様子がよく分かります。
クルミとステンレスバイブレーションの変則的なコの字型オーダーキッチン
変則的なこの字のレイアウト。シンクのあるアイランドカウンターは回遊できる動線になっているので、一人で使うキッチンというよりは大人数でも使いやすいレイアウトになっています。

2020年は夏頃から大変慌ただしくさせて頂いておりました。
特に年初に流行しだしたコロナウイルス蔓延にともなって中断していた新築工事が、夏頃から再び動き出したこともあって、皆さんのキッチンを作る作業で急に工房内が慌ただしくなったのでした。
実はこの春は、先ほどのコロナのことがあって、家具制作の相談が全く途絶えてしまって、私たちはこの先の仕事の在り方を考えなくてはいけない、と真剣にみんなで悩んでいたくらいでしたのに、これほど慌ただしくなるのが信じられないくらいだったのです。
そのため、Uさんのキッチンの制作は、作り始める前からもうスケジュールは間に合わないと思われていて、Uさんとの打ち合わせでもそのようなお話をさせて頂いておりました。
正直なところ、自分でもいつ頃なら間に合うのか、見えていない時期でもありました・・。

クルミとステンレスバイブレーションの変則的なコの字型オーダーキッチン
ゴールデンベルのある空間。とても繊細で美しい照明とキッチンの様子。
ステンレスカウンターはキッチンキャビネットから目地を取って浮いた印象に
ステンレスのカウンターもバックカウンターのクルミの天板も目地を取ってキッチンキャビネットから少し浮かせた印象に仕上げています。
洗剤ポケット付きのステンレスシンク
シンクには、無印のステンレスシンクラックが置けるサイズの洗剤ポケット。
洗剤ポケット付きのステンレスシンク
今回のご挨拶にはアキコも一緒にうかがって、ステンレス天板の日常的なお手入れ方法を説明しました。今のところ手軽にもっともきれいに掃除できるのはダスキンのステンレスクリーナーです。
真鍮六角棒のハンドル
このアイランドキッチンにはかなぐやさんの真鍮とって六角棒コの字を取り付けています。タオル掛けは上手工作所さんのもの。
オーダーキッチンの引き出しの様子
シンク左隣の引き出しの様子。
シンクの隣のオープン棚はザルやボウルの収納部
シンク左下のオープン棚の様子。今回のように金属製品を置く場合は、きちんと水気を切ってから置くようにしないと、金属成分が移ってクルミの期に黒いしみができてしまいますので、Uさん、そのあたりを注意しながら使ってくださっています。

それでも、現場の工事は着々と進んでいくのでありますので、私の気持ちは焦るのでした。
特に今回はクルミを使ったキッチンを作りたいというのがUさんの希望でして、クルミとなると無垢材と突板とでは大きく表情が違ってくる材の一つでありました。
なぜ大きく変わってくるのかがなかなか不思議なのですが、Uさんの時ではないのですが、ある時にクルミの突板のサンプルを見たくて突板屋さんから取り寄せたことがあったのでした。
その時に届いた突板の単板(実際の突板として使ううすい無垢材)はとてもきれいな赤身と白太が表れた単板でして、その単板を使って突板を作ってもらったのですが、できあがった突板を見ると全体的に赤っぽい、カバザクラのような印象になっていたのです。

クルミとステンレスバイブレーションの変則的なコの字型オーダーキッチン
シンク側のアイランドカウンターとバックカウンターの離隔距離は1,070ミリ。このくらいの空間があれば、人がすれ違ったり、作業をしながら行き来するのにもゆったりできます。

今までクルミを使ったキッチンや家具を作らせて頂いた皆さんが揃って言っていたのはクルミの少しラフな表情とくすんだ黄褐色の色みでして、できあがった突板は、なんというかとてもきれいに整いすぎていた、というのでしょうか、ちょっとイメージと違っていたのです。
このあたりのニュアンスはとても難しくて、その時はその突板を実際にお客様に見て頂いて快諾頂けたのですが、以前には「もう少しくすんだ色だったらより好みに近かったです。」とお客様に言われたこともありました。

オーダーキッチンのガスコンロ周りの様子
コンロ側キッチンの様子。
ガスコンロはノーリツのプラスドゥ
ガスコンロはノーリツのプラスドゥ。
ガスコンロの下はスライドワイヤーシェルフ
ガスコンロの下はスライドワイヤーシェルフ。
ガスコンロの下はスライドワイヤーシェルフ
スライドワイヤーシェルフの2段目。
ガスコンロの下はスライドワイヤーシェルフ
スライドワイヤーシェルフの3段目。

そのように、クルミの突板というのは毎回頭を悩ませるところでもあるため、事前にUさんにそのお話をさせて頂きまして、今回は無垢材をメインにキッチンを作る形でお話が進んでいたのでした。
無垢材を使用するとなると、普通の形のキッチンでも約1.5倍くらいの制作期間が増えるのです。
特に今回はシンクのあるアイランドカウンターはサイドパネル、バックパネルの3枚の無垢が留めで組み合わさります。そして、すべての引き出しの前板と、窓台と一体化する食器棚の天板が無垢になると、きちんと養生してから加工しないと変に動いてしまうといけないのでもう少し時間を取りたいところで、そうなると間に合うのかどうかがとても微妙なところだったのでした。

オーダーキッチンの引き出しの様子
ガスコンロ左隣の引き出し、1段目。
オーダーキッチンの引き出しの様子
ガスコンロ左隣の引き出し、2段目。
オーダーキッチンの引き出しの様子
ガスコンロ左隣の引き出し、3段目。

そして、いよいよ10月の下旬。
間違いがないようにと現地での打ち合わせはなるべくお客様、現場監督さん(もしくは設計士さん)、私の三者で打ち合わせを行なうようにしておりまして、この日がその打ち合わせの日でした。
初めて会う家具屋にキッチンの設置工事日程を融通させてほしいなんて言われたらうれしくないだろうなあなんて心配していたのですが、監督さん快く快諾してくれて、またスケジュール的にもそれほど誤差は出ないようで、私たちの無理のないスケジュールで作らせて頂けることになったのでした。
よかった、まずはひと安心です。

オーダーキッチンの吊戸棚は使いやすいサイズで
吊戸棚の様子。
ハンマードグラス(サハラクリア)を使った吊戸棚の扉
ガラスは通称ハンマードグラスと呼ばれる槌目模様のガラスを採用。今回はガラスを抑えるのに、扉の正面と裏面の両方から押縁を回すデザインにしています。
吊戸棚下のオープン棚
吊戸棚の下部は奥行きの浅いオープン棚。

なんとなく気持ちが落ち着いて、あらためて見まわしてみるとこの石神井はとても思い出深い町だったりします。 最初は、17年前にテレビボードのご相談を頂いたHさんのところに来たのが初めてだったかな。
スクラップブッキングの先生をされている方で、自分の活動を広めたいのですっていう相談も家具のお話を進める中で頂いたりして、ブログを作るのが良いですよ、なんてお話して、ブログの書き方を伝えに何度も通ったのはとても懐かしい思い出です。
そのあとには、クラシカルなリビングボードの制作のご依頼を頂いたことをきっかけにアキコやハルカも一緒にお邪魔させて頂いたりして、とても良いお付き合いをさせて頂いているNさんがすぐそばに居たり、茨城から石神井に住まいを移して、ここをアトリエにしてオリジナルの照明を作りたいとおっしゃっていたIさんのキッチンを作らせて頂いたり。
工房からはかなり遠い距離なのですが、とても気持ちが近い町だったりして、あらためてホッとしたのでした。

窓台と一体にさせた納まりのクルミ無垢材のカウンター
窓台と一体化したバックカウンターの天板。なかなか加工が大変なのです。

工房のほうもこの頃になるとたいへんな慌ただしさにようやく少し先が見え初めまして、元スタッフ(と言ってももう20年近く前に事ですが)で今は独立して頑張っているイトウ君の手を借りたりしながら順調に制作を進めることができまして、その年のクリスマスの1週間前にようやく設置工事に入ることができたのでした。
今回の難しい部分は、キッチンとダイニングとで床の素材が切り替わるため、その位置をきれいに合わせることと、窓台につながるカウンターをきれいに納まることでした。前回の打ち合わせでそのあたりを細かく話していたこともあり、設置工事は2日間かけて順調に進めることができて、さらに当日みにいらしてくださったUさんから頂いたリクエスト(使い勝手を考えて変更した吊戸棚の高さや脚元に追加したコンセント)などにも問題なく対応することができてキレイに納めることができたのでした。

ワイヤーシェルフを活用したキッチン収納
バックカウンターの右端は無印のワイヤーバスケットをうまく活用して見やすく使いやすい収納にしています。
クルミの引き出しの様子と真鍮丸棒ハンドル
バックカウンターのそのほかの部分は引き出し式の収納。

そして、それから10日後の12月28日、すでに仕事納めとなっておりまして、スタッフのみんなは思い思いの年末を過ごしている時期でしたが、この年内にキッチンをきれいに仕上げて新年を迎えたいというUさんの思いもありまして、この日にオイル塗装を行なうことに。
クルミというのは、素地の状態だと白っぽくて表情も乏しく見えてしまうのですが、これかオイルを塗ったとたんに濡れ色に変化すると導管がうわっと浮き出て、独特の赤みを帯びた色、くすんだ茶色が現れてきます。
「わぁ、きれい。」とUさんも塗りながらうれしそうです。

今回はオスモのノーマルクリアで塗装です。
塗料によって多少塗り方が異なりまして、今回のUさんのノーマルクリアはワックスが多めに含まれているため粘度が高いのです。
塗料によっては塗りっぱなしにしてそのまま乾燥させてしまう方が仕上がりが良いものもあるのですが、ノーマルクリアは乾燥に時間が掛かるのでそうしてしまうとかえって表面がごてごてしてしまって全く切れに仕上がらないので、標準施工通りに乾き始める手前に拭き取りをして仕上げる形が一番きれいです。
それを翌日以降に再研磨してもう一度同じように施工してもらってやっと完成となります。
今回は、ご主人と奥様とお二人で効率よく作業してくださっていますが、このキッチンのボリュームだとなかなか大変だと思いますが、頑張ってくださいね。
最初の塗り方とコツをお伝えして、あとはUさんにお任せしまして、無事にお引き渡しすることができたのでした。

オーダーキッチンの引き出しの様子
左端の引き出し、1段目。
オーダーキッチンの引き出しの様子
左端の引き出し、2段目。
オーダーキッチンの引き出しの様子
左端の引き出し、3段目。
オーダーキッチンの引き出しの様子
左端の引き出し、4段目。

そして、再びUさんにお会いできたのは、それから2年後のことでした。

「イマイ様、ご無沙汰しております。2年前にキッチンを制作頂いた上地です。とても素敵なキッチンを作って下さってありがとうございました。見た目も使い勝手も素晴らしく、イマイさんにキッチンをお願いして良かったなと思いながら過ごしています。」

と、メールを頂いたのでした。コロナ禍ということもあって、あれからだいぶ時間が開いてしまったのですが、あの時にお話しされていたスツールについてあらためてお声掛けくださったのです。
そうして、あのクルミのキッチンと再会。とても心地よく使ってくださっている様子が分かってうれしくなったのでした。

オーダーキッチンの引き出しの様子
中央の引き出し、1段目。
オーダーキッチンの引き出しの様子
中央の引き出し、2段目。
オーダーキッチンの引き出しの様子
中央の引き出し、3段目。
オーダーキッチンの引き出しの様子
中央の引き出し、4段目。
天板 ステンレスバイブレーション/クルミ板目無垢材
前板・扉 クルミ板目無垢材
サイドパネル クルミ板目無垢材
バックパネル クルミ板目無垢材
本体外側 クルミ板目突板
本体内側 ポリエステル化粧板
塗装 オイル塗装仕上げ
キッチン仕上げ

クルミとステンレスバイブレーションのコの字型キッチン

費用につきましては、お問い合わせくださいませ。

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