
控えめなほめ言葉
「クルミの階段状のオープンシェルフ」
杉並 S様
design:Sさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:daisuke hirose
painting:daisuke hirose


4年前にキッチンを作らせて頂いたSさんには、ちょこちょこと声を掛けてもらっておりまして、キッチンの納品のすぐ後に、ベッドや階段下のキャビネットのお話が出ていて、Sさんのタイミングでこうして作らせて頂く機会を持たせてもらうことが多いのです。
そしてSさん、毎回ちょっと(良い意味で)クセのある形の相談が多いです。
ちなみにSさんのキッチンは「杉並モダニズム」のチェリーのL型キッチンで、一緒にサクラでベッドのフレームも作らせて頂きました。そのベッドの納品の後にこういうお話をしてくださいました。
「自宅のほうがこれでひとまず落ち着いたので、今度はスタジオのほうをいろいろと考えていきたいと思っているのです。そこでまずは階段の下のキャビネットをお願いしようと思っています。それほど先にはならないと思いますので、イマイさんのほうでもちょっと予定しておいてもらえるとうれしいです。」
「いよいよ、階段下のキャビネットなのですね。どういう感じで使っていく家具になるのですか。」といろいろとお話をお伺いするうちに、Sさんの思いをお聞きすることができました。
「このスタジオはルイス・バラガンの建築の空間のような雰囲気にできたらいいなと思っているのです。」と。
ちなみにSさんは写真を撮るお仕事をされている方です。なるほど。
名前を聞いたことはあります。広い白い面積に鮮やかな色が差し込まれた印象的な空間というくらいしか私は知らなかったのですが、この場所がそういう色彩であふれてきたら、心地よいだろうなというのは、モダニズム建築に詳しいわけではない私でも分かるくらいとても心地よい言葉だったのです。
「可能ならば、玄関扉に使ったベイスギが余っているので、それを使って頂いて玄関と表情を合わせるのも良いかと思っております。」
ベイスギ・・・。
ベイマツ、ベイツガは聞いたことがありましたが、ベイスギってあまり聞かない名前だなあ。
調べてみると、レッドシダーのことのようですが、よく見かけるレッドシダーよりももう少し目が詰まっているし、持つとそれなりに重いし、これはレッドシダーなのだろうか・・、どちらかというとツガの表情に似ているような・・。
いずれにしてもそれほどの量があるわけではないので、家具の本体自体は新たに材を用意しないといけなさそうです。
また、お話を進めていくうちに、シンプルな階段状の棚を作るところからだんだんとお話が複雑になっていきましたので、その材もある程度の量が必要になりそうでした。

そのような感じでお話を進めていく中で、ツガで作ろうかと考えているところで一度Sさん材料をこちらに見にいらしてくださいました。
その中でツガのおとなしい表情よりも、導管が細くて表情は優しいのだけれど、白太と赤みの色の差が大きく鈍い色をした木肌、黒いスジやフシがところどころにある様子が表情の豊かさと感じられるということでクルミを使って作らせて頂くことになったのでした。

こうして、素材も形状もまとまりまして、制作に取り掛かることになりました。
先ほど書きましたようにオープンの棚というと簡単に思えるのですが、打ち合わせを進める中で一部を戸棚にして内部を見せないようにするなど、Sさんらしい表面には表れない複雑さが盛り込まれていきまして、踏板・地板・側板・背板が入り組んだ作りになっていき、それをオープン部分からは感じられないようにしないときれいに納まらなかったので、完成した姿からは感じられにくいそのあたりの工夫が大変だったのでした。
詳しくは、制作を担当したヒロセ君がそのあたりを書いてくれています。
https://www.freehandimai.com/?p=58945

こうして無事に完成して、ヒロセ君と納品。
「おぉ、いいですね。」と、いつもの控えめな褒め言葉を頂くことができました。 Sさんといつもお話をしていると、感じることがあります。
こちらが提案している内容に、「それは良いですね。」と良い印象を持ってもらった時に、それならばと私も勢いづいていろいろとお話をさせて頂くのですが、そうすると、急にまるで熱が冷めたかのようにふと黙り込んで、「それならこういう形で行きたいです。」と静かな調子で言葉を選んでお話を始める。
何というか、馴れ合いにはならずに常に一つの緊張感が目の前にあって、その気持ちがぶつかり合うというか触れ合うことで、互いに良いイメージが高まっていくというのでしょうか。
何というか、一定の距離から踏み込めないもどかしさを感じながらもそれが良い形につながっていっていることが不思議だと常々思っているのです。
控えめな誉め言葉でも、こうしてよく声を掛けて頂けるというのは私たちのことを気に入ってもらえている証拠かしら。
そして、以前のブログにも書いたのですが、Sさんはいつもご自身で考えている形のなかに独特のエッセンスがあって、写真家というお仕事柄いろいろなことと出会う機会が多いということもあるのかもしれませんが、私が気付くことができなかったことを見事に感じ抜いていて毎回ハッとさせられます。
今回のこのキャビネットも写真で見ると何気なく映ってしまうのかもしれませんが、Sさんの気持ちがよく表れた美しい形になりました。
楽しみにしております。
なんて思っていたら、「イマイさん、エアコンのルーバーを作ってほしいのです。」とちょっと変わった相談が・・。

クルミの階段状のオープンシェルフ
費用につきましては、お問い合わせくださいませ。
ご注文・お問い合わせをご検討中のかた
ちょっと関わりのありそうな家具たち
-
2014.11.19本棚、飾り棚、吊戸棚のオーダー
プロトタイプ
「タモの洗濯機上吊戸棚のオーダー」 海老…
-
2014.11.19本棚、飾り棚、吊戸棚のオーダー
陽当たり良好
「本棚のオーダー」 茅ヶ崎 Y様 des…
-
2014.11.20本棚、飾り棚、吊戸棚のオーダー
かおり、ぬくもり、ただよう
「チェリーのL型本棚のオーダー」 白楽 …