家具を作ることは自分を見つめ直すこと
2025.10.22
家具やキッチンを作ることって、自分が今までどう暮らしてきたかを見つめ直す良い機会だと私は考えております。
家具をオーダーする時って、ちょっとしっかりした気持ちで皆さんご相談に来られます。目の前にあるものを購入するわけはなく、まだここにはない家具を、それも見ず知らずの人に一緒に考えてもらって、大きなお金を支払うのですから。それってとても勇気のいることだと思います。
だから、やっぱり簡単な気持ちで相談に来られる方は少ないのです。
そういうしっかりとした気持ちを持った皆さんとお話を始めるわけですが、最初はやはり取っ掛かりが難しかったりするのです。特に男性とお話しをしているとそう感じることがあります。おそらく私も同じ立場だったらきっとそういうふうに構えてしまうでしょうね。(笑)
女性がお話ししてくれる場合は、まずきちんと全部お話しされてから、私から見てこれは良い、これは良くないという部分を聞かせてほしいっていうスタンスでお話ししてくることが多いですが、男性は最初から一歩引いた立ち位置で話を聞きながらも、何か不整合な点がないかどうかを確認されている、と言う感じを受けることが多いです。
だから、その人の気持ちを知るのに、男性のほうが時間が掛かることが多いのです。それは自分にも当てはまります。
自分の服を購入する時に妻にも良く言われました。
私はそんなにおしゃべりが得意ではないので、お店の店員さんに話しかけられるとちょっと戸惑ってしまう方でして、女性のように気軽にウィンドウショッピングなんてことが難しい。(笑)
だから、服を買う時もこれって心の中で決めてからお店の人に話しかけるわけですが、その様子を見ていて妻が、「お店の人はプロフェッショナルなのよ。それはもちろん、お店側にとっては服を購入してもらいたい、と言う気持ちが一番だと思うけれど、その前にその人のことを考えていろいろコーディネートしたいって言う気持ちがあってその仕事をしている人なのよ。だから、自分に合うものかどうかは相談に載ってもらうことが一番よ。その上で自分が決めれば良いと思うよ。」
なるほど。それはその通りだ。
そのようなわけで、それから私はなるべくいろいろな方とお話しして意見を頂いてから服を選べるように、少しは成りました。(笑)
だから、家具やキッチンも一緒だと思っています。
まずは、もちろんその人が希望する家具のお話しからはじまるのですが、気が付くと、何が好きで、どんな暮らしをしたくて、どこに住みたくて、と少しその人のプライベートに入り込んだお話になったりもします。そうしないと、いろいろなことも見えてこないしいろいろなことが提案しづらかったりするからです。それが、男性の場合は女性に比べてもう少し時間が掛かったりする。
でも、そこまでお話ができるようになると、
「じゃあ、私は毎朝ここでこうしたい。」
「ここにはこういうものをしまっておいてすぐに食べられるようにしたい。」
「子供たちはここで勉強させたいから、あなたはここに居てね。」
なんて、この家具やキッチンが入ってからの暮らしがどんどん見えてくる。
「それなら、これは私にとって必要ないものよ。」
「ここは、これがないと使いづらいから絶対譲れないかな。」
とか、自分たちの暮らしかたが今までどうだったか、それをどう続けていきたいか、どう変えていきたいか、会話のやり取りで、暮らしかたがどんどん洗練されていくのです。
洗練されていくって言っても、ただ何もかもそぎ落として、シンプルになっていくわけではなく、その人の気持ちが洗練されていって、周りから見れば不要に見えるものでもその人にはとても大切な物だったり、今までの暮らしでどこに満足していて、どこに不満があったかがどんどん見えてくるのです。
だから、できあがった家具が仮に周りから見ていると、何気ないどこにでもあるような形に見えたとしても、その人にとっても唯一の形になるのです。
その唯一の形に辿り着くために、お話しをして、暮らしかたを考えて、そのきっかけを作ることが私たちの一番大切な仕事ではないかと思っております。
以前に、ちょっと変わった依頼をメールで頂いたことがありました。
ご新居にシンプルな食器棚を作りたいと考えていらっしゃったお客様で、費用の感覚がまったく分からないから、ということで、私たちを含め数社に御見積をお願いされていました。
そのことをお知らせ下さった上でいろいろとお話をしてくださいました。ここはこうしたい、新居のここはどうなっているのか、ここはどういうふうに使ったら良いか・・。
いろいろとお話ししながら、一つの原案を作り、それをその方の希望に合う形になるまでいくつか変更を重ねた頃、ちょっと変わったメールを頂きました。
「イマイさん、実は私迷っているんです。数社の家具屋さんを検討しながらここまでお話を進めてきて、イマイさんのご提案が一番丁寧で分かりやすくて、金額もそれほど高くないのです。でも、もう一社さんもそれなりにご提案を下さって、金額はイマイさんよりも少し安いのです。なので、イマイさんにすべきか、そちらの家具屋さんにすべきか、迷ってしまって。」
そして、そのメールと一緒にその家具屋さんが作った簡単な図面が添付されておりました。その形を見ても私たちが作るとそんなに安く作るのは難しそうです。
これまでメールでいろいろお話しをやり取りしていたのですが、もうこれだけメールで打ち合わせていると、何となくその人となりが見えておりました。
それで率直にお話ししました。
「例えば、この家具屋さんの図面のこの部分は開け閉めする時にどんなポイントがあるかおっしゃっていましたでしょうか?」
「はい、これこれこうで・・。」とお客様。
なるほど、私が懸念している部分と同じことをこの家具屋さんは思っているなあ。これなら、使う人のことを考えた形になっている。そう思ったのです。
そして、お客様にそのままそのことを伝えました。
「おそらく、その家具屋さんはきちんと考えてくださっていると思いますよ。私が思っていることと同じことを考えているようですので。あとは、どちらの家具屋さんにされるかはご自身でお決め頂ければと思います。」と。
もちろん、私たちに依頼してくれたらうれしいなと思っておりました。でも、金額が安くて、同じように使う人の気持ちを考えてくれているのならそちらの家具屋さんが選ばれるかもね、とも思っておりました。
そして、やはりそちらの家具屋さんが選ばれて、お客様には、「イマイさんには、大変お世話になりました。結局のところ、家具をお願いできずアドバイスだけ頂く形になってしまいましたが、大変感謝しております。この先、このシンプルな形よりももっと大きな家具が必要になってくる時が来ると思います。おそらくもっと込み入った複雑な家具のご相談になると思われますので、その時にぜひイマイさんに依頼させて頂きたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします。」
と、お便りを頂きました。
何だか損したような得したようなよく分からないお話しの結末になってしまったのですが、こうしてそのお客様が一つの形に辿り着いたのだから良いかなと。
その時は、「お人好しだなあ。」と周りから声を頂いたこともありましたが、それが今に生きていると思っております。(笑)
でもね、こういう機会がないと自分の暮らしぶりを見つめ直すことってなかなかないことだと思うのです。だから、家具を買い揃えることももちろん楽しいことですが、こうしてお話ししながら家具を作ることも同じくらいかそれ以上に楽しく魅力あることだって皆さんに感じてもらえたらいいなあ、と思いながら日々過ごしているのです。
