犬越路アゲイン

2026.11.04

檜洞丸から犬越路を経由したあの帰路にすっかり魅了されてしまった私は、「私はね、ダイちゃんの進み姿を見ているだけで何となく不安だったのよ。」というアキコを説き伏せるようにして、ふたたび犬越路に向かったのでした。

手つかずではないけれど、心細く幅30センチもないような登山道に、熊笹たちが次第に覆いかぶさってその道さえ見えなくなってくるあの心細さ、むしろ足跡さえなくて道なんて見当たらなくてそれほど緑がきれいで、自分たちの鈴の音が止まると、鳥の鳴き声さえしないことに恐れおののいて、ふと周りを見渡して、かろうじて視界に入ったピンクのテープや苔に覆われた木道を見つけて本当に気持ちがホッとしたり、感謝したり。

ナウシカに出てきた森の人たちは毎日このような場所を見回っているのだなぁなんてぽつぽつ思いながら進んだ様子が思い起こされ、今度はいざ西丹沢に向かい、用木沢出合・犬越路・大室山・加入道山・白石峠というモデルコースを歩いたのでした。

大室山というと、伊豆のこんもりした優しい表情をした山を思い浮かべます。まだアキコと結婚する前に出掛けたことがあって、生まれて初めてプリクラというものを撮った思い出があります。

その優しい表情とは違う丹沢の大室山。険しいと分かっているけれども前回知った道を半ば通っていくので気持ちは軽かったのですが、やはりなかなか険しく楽しい道のりでした。

私は皆さんとお話をしながら形を決めていくという仕事に就いておりながらも、人と話すのはなかなか苦手でして、打ち合わせの時も相手の目をしっかり見て話すのもなかなかできなくて、どちらかというと相手の口元を見ていたりするくらいで、時折、しっかり目を見てお話されるお客様がいらっしゃるとドキッとしてしまうのです。

山歩きにおいても道中すれ違う人たちや追い越す人たちとどのような距離感でいることが良いのか分からなくなってしまいます。

「こんにちは。」と最初は挨拶を交わすのですが、少し疲れて歩みが遅くなってきたアキコを待っていると、先ほど追い越した人たちにスゥっと抜かれていって、アキコと合流をして再び歩き出すのですが、いつの間にか早足になってしまった私が先ほどの人たちに追い越してしまって、アッと思って再び彼女を待って・・。

こういう時にすれ違う人たちに何といえばよいのだろう、何を思えばよいのだろう・・。

もっと彼女が早く来てくれたらよいのに・・、その都度後ろを振り返るのもなかなか気持ちが疲れるのに・・、もっと道行く人が少なかったらよいのに・・、なんて、自分勝手で変にせかせかした後ろ向きな気持ちになってしまって・・。

苦手というのは反面、相手の思いを汲み取ることができていないことの表れのひとつでしょうから、アキコにも少し不快な思いをさせてしまったりして、いけないなあと思うのですがなかなか難しい。

今回、道程の当初から一人の男性がそばにいらっしゃいました。

私たちが用木沢の入り口でのんびりしているところを静かに先を進んでゆかれました。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

と、お互い挨拶を交わして私たちも歩き始めてしばらくしましたら、その男性が一息ついておられまして、軽く会釈をして先に進ませて頂きました。

犬越路の小屋で私たちが休んでいた時に、ふたたび男性が到着し、お互い軽く会釈を。そのやり取りが大室山山頂まで続いたのですが、何というかそこには苦手な気持ちやストレスという感情はなくて、すごく優しく同じ気持ちを共有しているように思えて、会釈することがとても自然な動作に思えて、この山歩きでそれが一番うれしかったことでもあります。

そのほかにも、白石峠からの下りでは、中川川(というのかな)につながっていく支流の流れ始める様子を見ることができて、ほんの小さな流水が苔むした木立の中を抜けて大きな流れに変わって滝になっていく様子を見ることができたり、鳥たちの集会を眺めることができたりと、とても心地の良い時間を過ごすことができました。

次はどこへ行こうか。