その人にとっての居間

「ナラ柾目のリビングボードのオーダー」

横浜 Y様

design:Yさん
planning:daisuke imai
producer:hiroyuki kai
painting:hiroyuki kai

ナラ柾目のリビングボード
リビングのイメージ。手前のコンパクトなダイニングがTRUCKさんの椅子とテーブルで、その雰囲気に合わせた仕上がりにされたいということで、今回はナラの柾目材を使って、少し濃い茶色に仕上げています。

「はじめまして。Yと申します。
以前からオーダーしたいと考えていましたが、仕事が忙しいこともあり、なかなかご相談できずにいました。
在宅勤務が増えたことや、一人息子が来年小学生になるのを機に、見直しを行うことに決めました。
リビングの壁一面に、リビングボードの製作をお願いしたいと考えています。テレビ台とデスクスペースを兼ねているものを希望します。家具製作例で希望に近いものは、「楽しく教えて、たのしく学んで」の調布のKさんです。デスクスペースには、デスクトップのPCを置く予定です。
どこまで決めて連絡をすれば良いかわからなかったので、とりあえずご連絡させて頂きました。詳細はご相談させてください。
先にお伝えすべきことがありましたら、お知らせください。宜しくお願いします。」

Kさんは懐かしいなあ。自宅で子供たちに英会話を教えていたステキな方でしたね。
でも、あの頃と今だと自宅の空間の使い方も変わっていっているように感じていて、家具の使いかたも変わっているように思えるのです。そこでまずはどのような形を希望されているのかを聞いてみたいのでした。
そうしてYさんからお返事が届きました。

お客様から頂いたリビングボードのスケッチ
Yさんから頂いたスケッチ。右側背面の壁がちょっと出っ張っているため天板を変形して作る必要があるということでした。

「イマイ様。
Yです。さっそくのご返信ありがとうございます。

こちらの返信が遅くなり、申し訳ありません。色々悩みました。

■サイズ
添付したメモの通りです。
壁の幅を測っていますので、実際は少し小さくなるのでしょうか。壁に段差があります。

■机のサイズ
幅90センチ、奥行50センチ、高さ70センチ
デスクトップパソコンを置きます。

■デスクスペース以外の用途
(1)可動棚
DVDプレーヤー
任天堂switch
ノートパソコン

(2)可動棚(扉付)
A4縦ファイルボックス
無印ポリプロピレンケース引出式

■木の種類
オーク材は可能でしょうか?
これから購入するダイニングテーブルがオーク材です。全く同じでなくても、色味が近いものを希望します。
雑なメモでわかるか不安ですがいかがでしょうか。」

ナラ柾目のリビングボードのデスク部分
机部分。仕事で使うということもあってかなりゆったりとスペースを採っています。ですので、天板の下には天板が垂れさがらないように幕板を入れた形で作らせて頂きました。

頂いた内容をもとに概算の制作金額をお伝えしまして、Yさんからご依頼を頂けることになりました。
皆さんに時々聞かれるのですが、この御見積金額をお知らせするところまでは費用を頂くことなく行なっておりますので、お気軽にお声掛けくださいね。
そして、ご依頼頂けることが決まりましたので、より具体的なお話を進めていくために、まずはYさんのご要望が実現可能になるように家具図面を作成します。

そしてその図面を持ってYさんのところへ。
打ち合わせは私たちのショールームで行なうこともあれば、最初からお客様のご自宅で行なうこともあります。
もちろん、ショールームで打ち合わせをした場合は、あらためてご自宅にお伺いして設置場所の確認と採寸と搬入経路の確認は行ないますのでご安心くださいね。

ナラ柾目のリビングボードの内部はグレーの化粧板
使っていて気持ちよく、ということで、扉を開けた内部にポイントを置きました。何色かのグレーの化粧板の中からこの色を選んでもらいましたが、ナラ柾のダークブラウンカラーととても良いコントラストになりました。

「こんにちは、フリーハンドイマイです。お邪魔します。」
「どうぞ奥までお入りください。」
と、案内して頂いたところにはTRUCKさんのコーデュロイ地のチェアと節のあるテーブルのあるリビングで、小さなお子さんがいらっしゃるように見えないとてもすっきりした物静かな空間。
お話を伺うと、まず家具の色の調子は、今お使いのTRUCKさんの家具の印象に整えたいということで、微妙な色味は異なってしまいますが、着色料の入ったオイルで印象を合わせることにして、さらに、メールで頂いていたように壁が一部変形していて、奥行を変えて制作しなければいけない部分を確認させて頂きました。
調べてみるとその壁がコンクリートそのままの部分と、おそらく「GLボンドの壁」と呼んでいる柱のない壁になっていると思われましたので家具を背面に固定することができません。
そのあたりを詳しく説明させて頂いて、家具を固定するか置くだけにするかをご検討頂くことに。

扉の手掛けの様子
扉の手掛けの印象。

どういうことかというと集合住宅ではコンクリートの壁に穴を開けるのは基本的にNGと言われていて、ずいぶん昔のリフォーム工事の時にコンクリート壁に家具を固定するかどうかで、いろいろと話が複雑になってしまったことがありまして、それからは、戸建て住宅の場合の場合やリフォーム工事で工務店さんの下で行なう場合は施工を行なうこともありますが、私たちだけで直接家具工事を行なう場合で集合住宅の場合は居住者の了解を得られてもコンクリート壁には固定しないことにしたのです。
それと、GLボンドを使った壁は基本的にどこにも下地となる柱が通っていませんのでビスでの固定ができないのです。そうなるとボードアンカーを使って固定することになるので、柱に固定するよりも強度が落ちる場合があります。

それから家具を固定しないで置くだけでも良いかも・・、というお話になりまして、今度は置き家具にする場合に想定されることをお話させて頂きました。
置くだけにしておいて、将来的にお子さんが大きくなった時には天板だけ加工をして机部分だけお子さんに譲って部屋に移動させる、そういう使い方を想定される方も多かったりします。
でも、今までの皆さんのお話を伺っていると、その場所でその家具を使い始めてしまうと、なかなか場所を変えて使おうと思っていても腰が重くなって、というお話のほうが多かったりします。
それと、置き家具にするとどうしても動かしたりする前提になるので、壁~壁いっぱいに家具を作ろうと思っても、多少逃げ(隙間)を見ておかないといけなくなります。
そうなると、机の場合はその隙間の紙やクリップなどの薄いものが落ちたり、寝室に置く家具だとホコリが溜まっていくこともあります。
場合によっては、置くだけにするには天板を分割しないと納まらない間取りもあったりします。
そのあたりをご説明して、どちらかYさんの暮らしにとってメリットがあるかをしばらくご検討頂くことにしました。

また、これとは別にこういうお話も最近よく考えるようになってきました。

リビングにパソコンを置きたいというお話は今も昔もよくお聞きするのですが、最近はモバイルという形が標準になっていますので、定位置でパソコンをする習慣も薄れつつあるように思えます。
以前によく頂いていたお話だと、リビングの一角に「家でパソコンを使う時のスペースを設けたい」「子どもがリビングで勉強できるようなスペースとしてパソコンコーナーを作りたい」というお話がありました。
以前のようにデスクトップパソコンをリビングに置くことが少なくなると、決められた場所でパソコンを使うということが少なくなってくるように思えるのです。
子供たちもね、小学生のうちは喜んで親のそばで勉強するのですが、中学生くらいの年頃になると干渉を嫌って、親の目から離れようとします。子供は親から見れば天邪鬼のように見えますが、それが自然な姿だと思います。そうなると子供のために作ったパソコンコーナーを親が使うかというと、きちんと家でパソコンをする時間が取れる方々(例えば家で仕事をしたり・・)なら使うのですが、ちょっとした調べものってなると手元のスマートフォンのほうが頼りになったりする。
それに壁に向かってパソコンコーナーを作ると意外と背中のリビングの様子が気になったりして、きちんとパソコン作業に気持ちが向かなかったりして・・。
そうなると、いつのまにかパソコンコーナーは読みたかった本の置き場になったり、ブランケットの置き場になっちゃったりすることもあるのです。

AV機器収納部のコンセントの様子
壁についているコンセントはそのままの位置で活用できるように家具の一部を開口して、また、可動棚にも配線が通せるような工夫をしています。

ですので、最近は、リビングボードにデスクを設けたいというお話が出る時には、パソコンコーナーが必要かどうか、プリンタをしまう場所が必要かどうか(プリンタも年に数回使う程度という皆さんも多かったりして、その為のプリンタ収納スペースが必要かどうかも悩ましいところなのです)をきちんと確認するのです。

私が時々書いているいるエッセイにもそのようなエピソードがありました。
もし、ご興味ございましたら読んで頂けたらうれしいです。

no.12 2021/10/14 収納計画は柔軟に

no.13 2021/10/14 オーダー家具の形は選択肢を広げて

no.22 2022/3/8 子供たちが勉強する場所について

AV機器収納部の様子
実際にAV機器をしまった様子。少し前まではレコーダーとビデオデッキとゲーム機などをしまいたいということで、機器を収納するスペースはそれなりに大きく確保することが多かったのですが、最近はテレビ側に内蔵されていたり、ソフトを所有するのではなく配信された情報を見るという形がひょじゅんになりつつあるので、それ専用のハードが要らなくなって、省スペースになりつつありますね。

その後は、今回は着色して仕上げるため、事前に色を見ておきたいというお話を頂いたので、塗装のサンプルとさらに今回収納の内部をグレーの化粧板を使うことにしたので、そのサンプルをお送りして、確認して頂きましていよいよ制作に入ります。
今回のように壁が変形している場合で、躯体壁だったりすると、壁の直角が出てないことが多かったりします。躯体壁の仕上げは結局左官屋さんの腕次第ですので、出隅が出っ張り過ぎていたり、引っ込み過ぎていたりというのは良くあります。ただ、採寸の時は壁が真っ白だったりすると未病な角度が判断できない時もあります。
そこで、そのあたりを設置工事の時に調整できるように天板は削りやすいような細工を施したりしておくのです。
工房で事前に準備をどれだけうまく進めておくかで当日現地での作業が効率よく進みますので。

コンセントケーブルなどを通す配線穴
天板の配線穴。

そのような形で制作のほうも順調に進んで、サンプルに合わせながら塗装して(今回はワトコの「ドリフトウッド」を使いました)、その後取付工事もスムーズに完了。
今回のYさんのマンションはかなり大きなマンションでしたので、取付工事の際にはいろいろな規約があるのかと心配しておりましたが、ある程度時間が経っているマンションだとそのあたりは効率よく進められるように管理人さんも融通を聞かせてくれるところも多く、今回も柔軟に対応して頂けて、無事に完了。

変形した壁とそれに合わせて加工した天板
壁が変形している部分の天板の様子。

「お世話になります、Yです。
ご連絡ありがとうございます。
メールの返信遅くなり申し訳ありません。
昨日は、ありがとうございました。
とても楽しみにしていたので、設置が完了してから、家族でしばらく眺めていました。テーブルの色にも合っていて、とても素敵な仕上がりに家族一同満足しています。
お土産については、事前にホームページで社員数を確認せずに買ってしまい、後から、少なかったことに気づきました。返って申し訳ございません。お恥ずかしい限りです。(大丈夫です。きちんと足りましたよ。そして、美味しく頂きました。)
そして、メンテナンスの件、丁寧なご説明ありがとうございます。家族全員がとても気に入っているので、大事に使っていこうと思います。」

とてもうれしいお返事を頂きまして、その後あらためてご挨拶と写真撮影に伺わせて頂きましたら、私が撮影に使っているカメラのメーカーのニコンにご主人が務めていらっしゃることが分かって、メールでのやり取りは奥様とさせて頂いていたので、前回の制作前の打ち合わせの時ではあまりお話ができなかったご主人の素顔がこの訪問で拝見できたこともとてもうれしい時間だったのでした。
Yさん、ありがとうございました。

ナラ柾目のリビングボード

価格:470,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は20,000円から、取付施工費は40,000円から)

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