スケッチたち

2021.11.17

少し変わったキッチンでした。タイルで囲われたキッチン周りに収納を作りたいというお話でした。白いタイルに囲まれたここにクルミの収納が入ったらすてきだったなあと思いましたが、残念ながらなくなってしまった昔のスケッチでございます。

ナラとステンレスバイブレーションのペニンシュラキッチンとバックカウンター

2021.11.13

「イマイさんのところに行くのは、妻も子供たちもちょっとした小旅行気分でいつも楽しかったのですよ。」とNさんがおっしゃってくださったように小旅行ですね。(笑)朝から出掛けて、工房に戻った時はすっかり日も落ちておりました。

ちょうど1年前くらいですね、このキッチンを設置したのは。

それから、いろいろとNさんも私も忙しくタイミングが合わず、ようやくこの秋にお邪魔することができたのでした。Nさんも奥様もその物腰の穏やかさどおりにとても丁寧にキッチンと食器棚を使ってくださっていて、うれしくなりました。

家自体も工務店さんがとても丁寧に作ってくださっていることが分かる仕上がりで、良い場所だなってホッとしたのです。

「駅の反対側に比べてこちら側はあまり人気がないので。」って、さっきNさんおっしゃっておりましたが、駅から歩いてきて思ったのは、静かで木がさらさらいう音が聞こえて、学校も近くて、すてきな場所です。そこに住むことって、家の中だけじゃなくてやはり環境が大切ですよね。自分の町に着いたとたんにホッと安心のひと息が出るような場所というのはすてきなことです。

あらためて引き出しの外し方や、オイル塗装のお手入れの方法、ステンレスをきれいにする方法などひと通りご説明させて頂いて、さようなら。外はだんだんと冷えてきましたが、温かな気持ちを携えて帰ってきたのでした。

チェリーのウッドパーテーション

2021.11.12

先日完成したウッドパーテーションを山梨県のOさんの寝室に納品。うねうね動くこの構造は試行錯誤の末にできた形で、今回もなかなか大変でした。

12年前に作った図面を引っ張り出したのですが、手描きのメモしか残していなくて(バカバカ)肝心の構造をどうするのが最適ないろいろ迷ったのでした。

特に今回は、前回と違って重量のあるチェリー材。さらには全長5メートルほどの長さで作る必要があったので、2分割して作ったその部分をいかに美しくジョイントさせるか。

パッと見ただけではどうやってくっついているのか分からない仕上りにできたのです。

メインはワタナベ君が担当し、ノガミ君がバックアップすることで完成したこの形。美しいですよ。

特にチェリー。経年で良い色になってきます。それが楽しみですね。

チェリーのパーテーション

2021.11.08

2009年にHさんのサロンに作らせて頂いたパーテーション。この制作例をご覧になって気に入ってくださったOさんに頼まれた形はもう少し幅の広い材で構成したパーテーション。しかも材はブラックチェリーですので結構重いのです。

長さを長くしたいというご要望で、あまりに長いと運べないし動かすのもひと苦労なので、2分割にして制作。そのつなぎ方も大変おもしろい形で考えてみました。

もうすぐ完成です。

チェリーの食器棚とブラックウォールナットの飾り棚

2021.11.07

こんにちは、Hさん。

9月半ばに納品したHさんのところにお邪魔してきました。

チェリーが若干色ついてきたように見えますね。それと共にゴミ箱を置く部分はどうしてもゴミ箱が擦れてしまったりして、ちょっと白くなってしまっていたところを蜜蝋でお手入れする方法をお伝えしてきました。

ご主人も奥様も暮らしに携わるものたちを一つずつ丁寧に使ってくださっている様子がそこかしこで分かりました。生活の跡や木の動きって必ず出てくるものですので、他のみんなと一緒に食器棚と飾り棚も仲間に入れてもらってそれを楽しんで使ってもらえているようでうれしく思いました。

コーポラティブハウスということで、それぞれの部屋を建築士さんと一緒に考えて暮らす場所を作っていく形だったのですが、「この食器棚だけは図面の中だけではイメージできなかったのです。」と奥様。

「やっぱりここに住み始めて、自分がキッチンでどのように動くのかを確かめてから使いやすい形を作ってもらいたいって思っていたので、当初予定されていたものはなくして住み始めたのです。」

「とてもシンプルにスムーズにお話が進んだように見えたんですけれど、イマイさんにお声掛けするまではあれこれ長い時間悩んでいたのですよ(笑)」

たしかに。Hさんの暮らしによく馴染んでいますもの。

キッチンは檸檬の香り

2021.11.04

先日、お客様のUさんからレモンとサツマイモをいただきました。お心遣いをありがとうございます。

よりうれしかったのは、今年我が家の檸檬の木が実らなかったからです。もっとたくさん実るようにと3か月ごとに柑橘類用の肥料をあげていて、ふさふさするくらいに立派に花も葉もあったのですが、夏ごろカイガラムシが大量発生して、取り切れず剪定してしまったのでした。「次に檸檬が手に入ったらレモンパイを作ってみようと思っていたんだ!」とレモン好きのハルが喜んでお菓子作りが始まりました。パイだけだと学校に持っていけないからとアイシングとホワイトチョコバージョンのシトロンクッキーも一緒に焼くことになりました。

レシピ動画を見ながら全部の作業に朝9時頃から夕方までかかっていましたが、とても上手に作れていました。ハルの身長は169cmありますが、高さ90cmのキッチンでこねる作業はやはりやり辛いので、ダイニングテーブルの方でしていました。我が家のテーブルの高さは72cmです。

レモンパイにメレンゲをのせるかどうかギリギリまで悩んでいましたが、のせて正解でした。口に入れてからの香りの強さを感じられました。すばらしいですね。(親バカ失礼します。)

こんなにおいしいものを作ってくれるのなら、来年は自分の庭で取れた檸檬で作ってもらえるように、お庭の管理をしっかりやっていかなきゃと反省したのでした。Uさん、ごちそうさまでした。すてきな時間をありがとうございました。

西から東へ

2021.11.01

今日の午前中はあきる野の藤武さんのところに仕上がった鎌倉のHさんのダイニングチェアの座面を引き取りにお邪魔させて頂いて、続いて、次に作ってもらう池袋のKさんのソファのクッションについて相談してきました。張りの技術は私たちの木工とはまた違った納まりがあるので、まだまだ勉強ですね。ありがとうございました。できあがりが楽しみです。

続いて、先日キッチンとその背面収納を設置した中野のHさんのところまで。今日はご家族総出でキッチンの塗装です。Hさんは平成さんのいつもお仕事でお世話になっている監督さんです。なので、オイル塗装は慣れているのですが、「念のためイマイさんに教わっておきたいのです。」ということでレクチャーさせて頂きました。

現在私たちが使っているオイルはターナーのエシャというオイルを使っています。今までいくつかのオイルを使ってきましたが、皆であれこれと相談して、コストと粘度、乾燥の素早さ、色の透明感や塗膜の印象などをいろいろ踏まえて、このオイルを使うことにしたのです。チェリーなら黄色みの強いワトコでも良い印象になったと思いますが、まずは透明感のあるエシャで行きましょう。

オイル塗装を施主様ご自身で行なうというのは、大きなメリットが2つあって、ひとつが家具制作費用のコストダウン、もう一つが定期的にオイルを塗っていくことで表情に深みが出るオイルなのですが、その定期的に塗ることが大変そうって思いも皆さんの中にありますので、それを最初から自分たちで行なっておければそのハードルも下がるかな、というのが大きなメリットだと思います。

特にチェリーのような色の変化の大きい樹種は、こまめに塗ってあげるととても色つやよく焼けていくように思えます。

オイルの塗り方、扉と引き出しの脱着方法(ちなみにどこを外したか分かるように番号は振ってありますよ)、乾燥方法、ウェスの処分方法などをご説明して完了。

「Hさん、頑張ってくださいね。今月末くらいには工事完了ですか。」

「はい、そのつもりで頑張ります。」とHさん。

「でもこの塗り壁も全部自分たちで塗るつもりなので、終わるかなあ。」と奥様。

それは大変だ。

山桜のキッチンバックボード

2021.10.31

ちょうど一年が経った頃ですね。

ブラックチェリーほど強い色の変化はまだ出ていませんが、やはりサクラは色付きますね。

昨年の10月に納品したUさんのところにお邪魔してきました。

【昨年の10月の様子】

ヤマザクラのキッチンバックボード

ほんのちょっとぶつけちゃったというところは、ティッシュペーパーを頂いて濡らしたものをその凹んだところに充てて数十秒(本当はもっと置いておきたかったのですが今日は簡単な実演ということで)置いたら、お借りしたアイロンを当てるとブシュ―ッってみんなびっくりするくらいの水分が蒸発する音がするのですが、そのまま数秒アイロンを当ててはティッシュペーパーをよけて様子を見て、さらに濡らしてブシュ―を繰り返し。だいぶ凹みは戻りましたよ。

それから、何かを垂らして色が抜けたようになってしまったという部分は、先ほどのアイロンを当てた箇所と一緒に400番で軽く研磨して、蜜蝋を擦り込むと、うん、とてもきれいになりました。

と、今日はこれが本題ではなく、玄関をうまく使えるように小さなリフォームをしたい、というお話でお邪魔させて頂いたのです。

いろいろお話を聞くと、私たちだけでは難しそうで、またkotiの伊藤さんに相談しないとね。

雰囲気ががらりと変わりそうで、とても楽しみなお話でした。

Uさん少しお待ちくださいね。

タモのキッチンとかソファとかテーブルとか

2021.10.30

先日納品したテーブルたちの塗装が終わって、「これですべてが揃いました。」とKさんから連絡を頂きまして、あらためてお邪魔させて頂きました。

江湖さんはご夫婦そろって建築士さんで今回はそのご自宅の家具をいろいろと作らせて頂いたのでした。

江湖さんとお仕事をさせて頂いて思ったことが、家具の設計をできる建築士さんというのがとてもうれしかったのです。こういうふうな言いかたは何だか一方的でよろしくないかもしれませんがそう思えるのです。私も長々とこのお仕事に携わらせて頂いておりますが、(数えると28年目でした。長いですね。)家具の設計ができる建築士さんは少なかったのです。過去によくあったのは建築のスケールで寸法を落とし込んでくださることです。そうなるといろんなところが大きくなっちゃって少し使いにくいのではないかな、と思えたこともありました。

でも、江湖さんをはじめ、今お付き合いさせて頂いている建築士さんは家具の設計ができる皆さんで、私たち家具屋の意見も柔軟に取り入れてくださって、そして、そういう方々が設計するおうちって暮らしている皆さんがとても居心地よさそうにされているのです。暮らしのスケールをきちんと持っている皆さんですので、それは心地良いことでしょう。

だから、江湖さんとのお仕事はとてもやりやすくて、また、とても大変勉強になったのでした。階段のササラが刺さった玄関収納は大変でしたが、天板の納め方やレンジフードの納め方の妙などなど。

こういうすてきな人たちの支えがあって、今の私たちの家具作りがあるのだなとあらためて気づかされました。

よい秋の陽射しでしたね。相変わらず汗が止まらぬ訪問で失礼いたしました。また必要に感じることがございましたらいつでもお声掛けください。

木のキッチン 気をつけること

2021.10.30

この季節になってくると洗い物の時に手袋が必要になってくるのですが、つい癖でやってしまうことが木のキッチンではよくないことがあります。

私も実家のキッチンを使っている時からの癖でやってしまうことがあるのですが、ふきんやゴム手袋を写真(2枚目)のように干しておこうとしてかけてしまうことです。手袋の水を切ったつもりでも、ふきんを硬く絞っていても、同じ場所にこうしてかけていると木が水分を吸収して膨らみ、常に水分の蓋がされているので黒くかびてきてしまうと思います。ウレタン塗装をしていても、この場所にベルトの金具や何かで傷が一か所でもついていたらそこから吸ってしまいますので注意が必要です。

我が家では朝出かける前にステンレス天板の上に広げて置いておきます。これでも十分手袋と付近は乾燥します。(うちが乾燥しているのでしょうか…。)

心配な方は日中の明るい時間帯に、洗い物が終わってキッチンの周りに飛んだ水分を拭き取る時に確認してみてくださいね。

シンクのあるタモのアイランドカウンター

2021.10.29

以前、「静かな午後」のOさんの時にお世話になった、自由が丘にアトリエのあるオノ・デザインさんにお声掛け頂きまして、前回のさんの時と同じようにシンク側のキッチンを阿佐ヶ谷にご新居を建てるHさんのおうちに作らせて頂いたのです。

今回はタモを使って、天板はステンレスバイブレーション。ダイニング側は半分は座って食事ができるように奥行を深く採ったので、ちょっと変わった形です。

今回はヒロセ君が制作を担当してくれたのですが、難しかったのはやはりこのカクカクした意匠を留で納めていく部分。そして、カウンターの奥行きが深い部分は天板だけだと手前に垂れてしまうので、このタモのパネルの内側に太い特注のLアングルを入れているのですが、その納め方ですね。

それと、今回は側面もヨコ目でつながってくるので、側面キッチン側の手前は端嵌めで納める形にして、なるべく木の歪みが出ないように製作を進めたのでした。

でもできあがってから、昨日の納品まで少し時間が開いてしまったこともあって、やはり木が動きます。ただ、設置工事や使用するに際しての問題になるほどの動きではありませんので、そういう良さも美しさのひとつと見て、楽しんでHさんに使って頂けたらうれしく思います。

次回使っている様子を拝見できるのが楽しみです。

ガラス天板のあるチェリーのキッチン背面収納

2021.10.26

Hさんの奥様の発案で実現することになったガラスの天板。

まだ無塗装でこれからHさんが塗装してくださるので、はっきりとした色のコントラストは出ていないのですが、ガラスの下もチェリーの突板を張っているので、仕上がると大変メリハリのある家具になるのです。

最近は地震などのことを考えると、割れると危ないガラスよりもアクリルを使うことが多くなったのですが、増の揺らぎが無いガラスはやはりスッとした表情が美しいですね。破損防止にフィルムも施工してあるのですが、とても美しくガラスを仕上げてくださったので、素のままの印象です。

ただ私の勉強不足で、ガラスの入隅の加工は大変困難なことだと知らなくて、いろいろと行きつ戻りつしてしまいましたが、このようにきれいな納まりになりました。

次回は塗装の時に現場にお邪魔させて頂く予定です。

楽しみですね。

チェリーのアイランドキッチン

2021.10.23

Hさんのキッチンの設置を終えて、ヒロセ君とワタナベ君が戻ってきました。昨日の寒天とは打って変わって心地よい陽射しが西に降りる頃に戻ってきました。

中野なのですが泊りがけで出かけていたのです。コロナの状況が落ち着いてきたからなのか、道路がどこも車車でぎっしりで昨日現地に辿り着くまで2時間半も掛かってしまい、工房から2時間を越えるところになると往復するほうがデメリットが多いのです。

近くに宿が取れれば、みんなの体も楽ですからね。

ということで、本日無事に戻ってきました。

あとは来週背面収納を設置すれば完了なのですが、そのボリュームもなかなかありますので、段取りよく進めてきれいに納めましょう。

整理整頓

2021.10.23

私達の工房2階のショールームにいらしてくださったことのある方々はご存知だと思いますが、ショールームの1箇所がスタジオになっています。会長の趣味がカントリーバンドのギター&ボーカルということで以前は月に一度ここで演奏会が開かれていたのでした。音楽好きからオリジナルスピーカーの製作に繋がったのです。
会長やバンド仲間も高齢になり、その頻度が3ヶ月に一度、一年に一度と減ってきてしまいました。あまり使われなくなったその場所はずっとそのままになっていました。
使われなくなった場所には使わないものが置かれて溜まりやすくなって見栄えがよくなくなっていきました。気になってはいたのですが、私はその物たちが持つ思い出を知らないので、すぐ片付けられますが、持ち主にとっては簡単なことではなかったのでしょう。先日ダイスケさんと私で整理させてもらいました。
整理収納アドバイザー野中幸子さんに教わった通り、まず全部出す→仕分け→戻すものが決まったら収納の形と場所を決め表記する→お別れするものの行き先を決め仕分けておく。もちろん時々仕事に戻りながらですか、この全行程に3日間かかりました。捨てるものを分別ゴミに出すまでがお片づけですから、近所迷惑にならないくらい小出しにしていくとあと1ヶ月はかかると思います。
この作業、70代の方にはもうできないことだと思いました。重いアンプやスピーカーを運んだりは腰や膝に負担が大きいです。
お手伝いできてよかったのは、今まで知らなかったその物たちが持つお話をダイスケさんの思い出話と共に知ることができたことでした。それを知ったからには尚更もっとかっこよく他の方にも見てもらえるように飾りたいとも思えました。
もしまた、この先またライブをすることになってもすぐ配置を変えて使えるようになりましたよ。
ショールームにはオーダー家具、オーダーキッチンのほかにオリジナルスピーカーもありますので、そちらもぜひご覧になってくださいね。

肝心の会長に確認してもらいましたら「これ、ここにあったんだ!」と言ってもらえました。(笑)よかったです。

コーリアンとチェリーのL型キッチン

2021.10.22

Mさんのチェリーのキッチンもコーリアンが届いてようやく仮組完了。

この形状を1枚で制作するのは難しいということで、現場にてつなぎ目をシームレス加工して仕上げる予定。

最近なかなか納まりが難しいキッチンや、形状の少し変わった家具の相談を多く頂いていてたいへん悩むところです。

どれも初めて試みるところがあって、手探りで良い納まりを探していくことの難しさをあらためて感じながら、少しずつ前に進んでいくのです。

今日は、朝から中野までHさんのキッチン設置に出かけていました。古い集合住宅のリノベーションでして、アイランドキッチンのステンレスカウンターがおそらくエレベーターからも階段からも難しいだろうと思って、長いロープを用意して臨みましたら、どうにか階段からぐるぐる回すことができてひと安心。ヒロセ君とワタナベ君はそのまま施工を続けてもらっていて順調に進んでいるかな。

来週には背面の大きな食器棚を設置するとHさんの空間がよりキリッと引き締まってきますね。

あらためて少しずつ前に進んでいくのです。

クレミル2021のお知らせ

2021.10.17

年末のイベント「クレミル」ですが、このコロナの状況を考えまして、今年も開催しないことに決めておりました。

お知らせがたいへん遅くなってしまい、楽しみにしてくださっていた方々には申し訳ございません。

次回こそ笑顔で皆様にお会いできることを願っております。

その時まで皆さんで物作りを楽しんでもらえるようなあれこれを考えておきますね。

また、お世話になっているフリーペーパー「HANASHONAN」さんのイベントにはお誘いいただいたので参加します。

西湘・小田原住宅公園で開催される「住まいの応援フェスタ」で行われる「湘南フェスタ」11月23日10時~17時まで出店します。家具の展示と木工雑貨の販売を行う予定です。興味のある方・お近くの方はぜひ遊びにいらしてくださいね。

ホワイトオークの円卓

2021.10.16

Sさんから依頼されていたホワイトオークの円卓が完成しました。

ホワイトオークはナラに比べて導管の描く表情が大きいためダイナミックな仕上がりの家具になります。

ナラ材の単価が上がっている最近、このホワイトオークを使う機会もだんだんと増えております。

今回のSさんは「和む場所、にぎわう音」のSさん。あの時はホワイトオークの突板を主に使ってのキッチン制作でしたが、今回はそのリビング似合うようにということで同材の無垢を使っての制作です。

で、表情の良いホワイトオークですが、板の動きが出やすかったりするので、大きく板の反ったり歪んだりすることはないのですが、(無垢材ですから、少なからず板は動くのですが)割れがよく表れるのです。

今回も作っている過程で、天板の裏面に1ヶ所割れが出てきてしまって、そのまま使って頂くべきか、契りなどで割れが大きくなるのを予防すべきか、接ぎ直すべきか迷ったのですが、端部に近い場所でしたので接ぎ直すことに。

ただ、材にも限りがありますので、無駄に使うことなく、その木自身の個性を生かすような仕上げかたの工夫もこの先考えていくともっと良い表情がうまれるのかなあ、なんて思ったりするのです。

床を拭く

2021.10.15

私は決して掃除が大好きというわけではないのですが、アキコに言わせると「よく掃除をするほう」なのだそうです。
この家に越してきてからは以前の住まいよりも強く思うのが、床の足触りなのですね。
以前の住まいはマンションで、床材はウレタン塗装仕上げのフローリングでした。
ふだんは裸足で過ごしていることが多いので、ウレタン塗装の床だとペタペタという感触になるのです。
(揚げ物なんかしちゃうと、ペッタンペッタンって感じです。)
そんな床でしたが、時々床を拭き掃除すると、さらっとした感触がとても気持ちよかったものです。

こちらの家では床にアカマツを使ってオイルを塗って仕上げているので、特にその感触が心地よいのです。
でも普段サラッとした感じでいられるので、何かを踏むと結構気になっちゃうのですね。
例えば、米びつから落っこちた米粒、玄関から舞い上がった細かい砂、ポテトチップスのかけら(これは私の仕業です)、そして髪の毛。
我が家は娘二人なので女子3人なわけですが、もうそこらに髪の毛ちらほら落ちてしまって、仕方ないのでしょうけれど気になっちゃうんですね。
なんか気持ちわるい・・。
それで、家に居る時はもう朝ご飯食べてすぐに掃除機かけちゃって、気になったら汗ボタボタ垂らしながら床も拭いちゃう。(もちろん汗も拭きます)
僧居ているうちに木分もすっきりしてくるわけで、掃除をすることで自分の気持ちも整理しているのだなあと思えるのですが、娘たちは神妙な顔つきで、「またお父さん掃除しているなあ。」って感じで見ているのです。

ちなみに床は自分で雑巾絞って拭くことがやはり気持ち良いです。
児童で拭き掃除してくれる便利な道具も最近出ているようですが、私もアキコもそれは苦手で、食器も床も自分たちで洗うことが、自分たちが暮らしていることを実感できるようで好きなんです。
先日も床を拭いていたら、むかし自分で作った家具をよいッと動かしたら裏がこっそりカビていたりして、床と一緒に拭いてあげたり、遠い昔の米粒がひっそり隙間から現れたり、油が跳ねた後がうっすら黒くなっていて顔の模様のようになっていたり、真鍮のレールが黒ずんでいてホコリがついているのが分かりにくくなっていてそれでとの動きが重かったことが分かったり・・。

だから、お休みの日に掃除してひと風呂浴びてお酒飲んでご飯食べてという一連の作業は周りから見ると地味で大変に見えるのかもしれませんが、自分にとっては気持ちをきれいにする流れだったりします。

むかし、誰かの小説でこういう話を読んだことがありました。
とある大学生の青年が、自主学習の最中にふと室の窓から向こうに同級生の女性が住んでいることが分かったら、その女性の暮らしを眺めることが日課になってしまったのです。
それは覗きですから良くない行為なのですが、その日課にどうにも抗えなくしまった青年は、約1ヶ月間、学校にも行かず、身なりも整えず、風呂にも入らず、食事と睡眠の時以外はそのの望遠鏡越しに見える彼女の姿しか追うことができなくなってしまったのだそうです。
しかしふとある日何のきっかけか忘れましたが、眺める行為に全く興味が無くなり、きれいに身なりと部屋を整えて、普通の暮らしに戻っていく、というお話でした。

この時に思ったのは、人ってどうにでも変われるのだなあとあらためて思ったものでした。
私にも時々あります。
床にごみが落ちていても、洗い物がどっさりたまっていても、靴が乱雑に脱ぎ散らかされていても、まあいいやって思ってごろごろと映画を見続けていたりすることが。
気にしないと気にならなくなっちゃうんですよね。
さっきまで気になっていた髪の毛なんてどうでもよくなっちゃう。
怖いなあとも思うし、すごいなあとも思う。
この「気にならなくなっちゃう。」さまに陥らないように気を付けないといけないなあ。

でもそうならないのはなんでなんだろうって考えると、やっぱり自分が一人じゃないからなんだろうなあと思うのです。
自分ができるはずなのにそれをやらないと、自分に関わっている人たちが代わりにやらなくちゃいけない。
それって、淋しいのですね。
自分がその時に動いていれば、相手にはもっとゆとりが生まれて、お互いが一緒に過ごす時間が増えるのですから、それをしないでおくことは淋しいことです。

そういうふうに相手や周りを思う気持ちがあることできっと自分の気持ちもきれいになっていくのかなあと、日曜日の午後に床を拭きながら思うのでした。

エッセイ一覧に戻る

床材の選び方。素材ごとの感じ方の違い

2021.10.15

もともと父が創業した当時の私たちの家具作りというのは、一般家庭向けの家具よりもお店に置く家具(というか什器)を作ることのほうが多く、またできあがった家具は工房まで運送屋さんが引き取りに来てくれて設置工事は大工さんが行なう、そういう昔ながらの木工屋の家具作りだったので、実際に使っている声を聞く機会がとても少なかったのです。
でも、こうしてインターネットが普及したおかげで、いろいろなところから直接家具のご相談を頂けるようになり、そのたびに私もいろいろなことを皆さんから聞くことができるようになった今日があるのです。そういう日々ですので、以前に比べると家具の形を考えるだけではなく、室内空間全体のことを相談されることも増えてきました。
さらにはオーダー―家具だけではなく、オーダーキッチンを作らせて頂く機会が増えると、より家具やキッチン単体ではなく、暮らしの動線や時間の過ごしかたなどより生活に踏み込んだお話をすることが多くなってきました。

その時によくお話が出るのは、キッチンの床材をどうしたらよいか、というお話です。
リビングの床は、今のところほぼフローリングにされるお客様が多いですね。やはり木の床というのは気持ちが良いものです。
ただ、「リビングは汚れなさそうで良いのですが、キッチンに木を使うのはどうなのでしょうか。」とよく皆さんに聞かれるのです。
「お料理をしていると汚れたり、濡れたりすることが心配で・・。」と。

私も以前の住まいは、一般的なマンションでしたので、なかなかその感想を伝えることができず、こうしてようやく自宅を無垢のフローリングにしてみるまでは、いろいろなイメージばかりが先行してしまって、キッチンにフローリングということに私もすこし心配があったのです。でも暮らしてみるとそれほど気にならないかな、というところが正直な気持ちです。
もちろん、揚げ物などをすると油は跳ねるので、細かなシミはできたりします。それは日常的なお手入れで軽減できたり、徐々についてゆく暮らしのあとは私は良いものと思って受け入れることができます。それほど気の床は気持ち良いものだと思えています。

そもそも無垢の木を使うということは、材が動いて歪んだり、割れが起きたり、染みがついたりはしやすいものです。それよりもその表情自体、感触自体を楽しむために自然素材を使うのですから、無理に抑えつけたり、塗膜で覆ったりするのは材料にとってもストレスになるのではないかという思いがあります。
なので、無垢の木を使う場合にリビングダイニングなどはオイルなどの自然塗料で仕上げて、キッチンだけは木の内部に染みこまないようにウレタン塗装にするというのは少しもったいないかなと感じてしまうことがあります。

ただ、それぞれの暮らしの中で何を重視されるかはその人それぞれですので、木の表情が好きでも汚れが付くことが気になるという場合は、キッチンだけではなくリビングダイニングも掃除がしやすいようなウレタン塗装などのコーティングで仕上げるほうがまとまりが出て、美しく仕上がるのではないかと思っています。
以前に汚れやすいキッチンだけウレタン塗装で、他はオイル塗装で、と塗り分けているところを拝見させて頂いたことがありましたが、やはり仕上がりの印象に大きく違和感があって、明らかに表情が違ってしまうのです、ですので、キッチンとリビングダイニングとで見切り材などを入れない限りは、塗装を切り替えるのはかえって不自然に見えるのではないかと思っております。

むしろ、塗装で切り替えるのでしたら、別の素材にするほうが潔くきれいに見えると思うのです。
ただ、その素材によっては、個人的に良いものもあればよくないものもあると感じています。
私が良いと思えるものは、見た目の印象よりも手触り、足触りなどの感触が優しいものが良いと思えております。
こんなお話がありました。
よくフローリング以外にタイルにされる方も多くいらっしゃいます。
フローリングもタイルもその家に住む皆さんの好みですので、自分の中で最善と思える素材を選ばれることが良いかと思いますが、私はキッチンにタイルを張ることは少し躊躇してしまいます。
なぜなら冷たいからです。
私は毎日スリッパを履くという習慣がなく、どちらかというと冬でも裸足で過ごしていることが多いくらいでして、妻や娘たちはさすがに冬は寒いから靴下を履いてもやはり普段からスリッパを履く暮らしにはなりませんでした。
そうなると、タイルは冷たいのです。自宅の洗面所は掃除しやすさを優先してタイル張りにしたのでよく分かります。
風呂上りなどは、洗面所を移動するのにバスマットの上を飛び跳ねるように移動していたりしますので(笑)
特にキッチンは洗面所よりも長い時間を過ごすことが多い場所で、さらにはそこに立つ女性は冷え性になりやすかったりしますので、タイルの床は体が冷えてしまうこともあるそうで、やはりどのような素材でもメリット・デメリットがあるのだなあと実感するのです。
では、木が最善なのかというと、ほかにも良い素材をお客様から教えて頂いたことがありました。
コルクです。昔ながらの表情のコルクだけではなく、今はモダンな柄に仕上げられたコルクも出ていてタイルのようなシックな印象なのに、掃除もしやすく、さらに冷たくないものもあったりします。
いろいろな素材があるのだなあと日々勉強の毎日ですね。

さらに木のフローリングのなかでも樹種によっては見た目も違えば感じる印象も大きく違うものがあります。
先日、自宅のオープンハウスを行なった時に、以前にキッチンを作らせて頂いたお客様が遊びにいらしてくださったことがあったのです。
その時に、自宅に上がって開口一番「あ―、足が疲れないです。」そうおっしゃったのでした。
詳しくお話を聞くと、仕事で海外生活が長く、海外では、絨毯敷きでさらには靴を履く暮らしだったので感じなかったのだそうですが、いざ日本に戻ってくると自分の家の床は硬くて丈夫なナラ材。さらには海に近い場所に暮らしていることもあり、家では裸足で過ごすことが多くなると、なぜかかかとから脚が疲れて怠く感じる、なんだろうなって思っていたのだそうです。
その時に私の家に来て思ったのが先ほどの言葉でした。
私の自宅の床はアカマツ、そのお客様の床はナラ。
ナラは広葉樹の中でも傷がつきにくくて丈夫に使えるのですが、傷が付きにくい分堅いのです。硬いと踵からくる反動で脚やひざに感じますし、さらには硬い材は冷たいので、体が冷えやすかったりします。
アカマツは針葉樹ですので、木の中に空洞が多いので、柔らかくて傷つきやすいのですが、そのかわりに空洞に空気が含まれていて断熱効果もあるのです。
柔らかいため足が疲れにくく、冬でも床が冷たくなりすぎないので、歩いていて優しかったりします。
でも家の床はもう凹みだらけですけれどね。

選ぶ素材の違いで感じ方の違いもありますし、木を選んでも選ぶ木によっては感じ方が大きく変わるのです。
家を建てる、リノベーションをするというのは暮らしが大きく変わる場合もあります。
見た目が美しくなる、新しくなるということもとても気持ちが華やぐことですが、新しい暮らしがどのように変わるかが体験できるように素手や素足など自分の中できちんと感じ取ったうえで形や素材を決めてゆけると心地よい空間ができあがるのではないかと思うのです。

エッセイ一覧に戻る

ただしい声の鳥

2021.10.15

ある夜、淋しい夢を見たような気がして流れた涙を伝う感触と、その淋しさで大きく肩をふるわせながら目を覚ましたタルベルの佇む窓辺に、深い夜でもはっきりとした青い羽根をもった低くただしい声をした鳥がやってきてこういうのでした。
「タルベル、私も淋しい夢を見ました。一人になってしまって、風と一緒に飛んでいくみんなの後を追いかけて、夜のなかを飛んでいたのです。
やがて空が白んでくるころ、ふと気が付くと私のほうがずっと先を飛んでいました。
強い思いは自分の目をくらましてしまうこともありますが、自分を大きく前に向かわせてくれます。私はあの夜、危うく大きな空の向こうに落ちてしまうところでしたが、お日様が私の目を覚ましてくれて、皆のもとに戻ることができました。あなたが見た淋しさは、きっとあなたを強くしてくれますよ。」

青い羽根が朝日を浴びてまるで銅色に輝き始めた正しい声の鳥のさえずりを心地よく聞いていたタルベルは見つめていた西の空からただしい声をした鳥のほうに顔を向けるとこう言いました。
「ありがとうございます。気持ちが正しくなりました。ごきげんよう、さようなら。」

ただしい声をした鳥は、この冬が終わりを告げて春がやってくることを教えてくれたのでした。
タルベルはもう居ません。

エッセイ一覧に戻る

カムカとシミル

2021.10.15

カムカは青く透明な玻璃でできたような空を見ていました。
「おーい、おーい。」
高くて空も凍るようなところを鳥が渡ります。
「はっはっはっ、やめろ、やめろ。お前の声なんて届くわけがないだろう。そんな奇態な真似はやめておくれ。」
シミルはそう言ってカムカの頭をポカポカと叩きながら笑います。

カムカは青く透明な瑠璃のような海の向こうを見つめていました。
「おーい、おーい。」
海の向こうの霜降りのような森のまた向こうの灯がかすかにチラチラとしています。
「はっはっはっ、やめろ、やめろ。お前の声なんて届くわけがないだろう。お前のつまらない声は私の耳をつぶしてしまうよ。」
シミルはそう言ってカムカの耳を叩きました。

シミルはその夜も帰ってこう思うのです。
「あのおかしなカムカと居ると、陽気で居られることこの上ない。毎日が愉快だ。ああ、明日は何をしてくれるだろうかな。」

カムカは、毎夜毎夜、空と海を交互に見つめて過ごします。
そして、ある日珍しくカムカの戸を叩くものが現れました。シミルは戸を叩いたりなんてしませんから。
「カムカさん、こんばんわ。あの時は通り過ぎてしまってすみませんでしたね。先に行ってしまった皆のためにもあそこで、私一人が列から外れるなどと言うことはできませんでしたので。
無事皆向こうにたどり着きました。
私は渡る鳥です。今日はあなたをお迎えにあがりました。」
「ああ、鳥さん。ずっと待っておりました。一緒に行きましょう。」
そういうと、鳥の背中にまたがったカムカは海の向こうの灯の先へと飛び立ちました。

次の日から現れないカムカのせいで、シミルは毎日しゃべる相手も見つからず、笑う相手も見つからず、口をつぐんでつまらないことばかり考えているうちに、次第に真っ暗になって、とうとう動かなくなってしまいました。

エッセイ一覧に戻る

2021.10.15

「おや、ようやくお目覚めだね。」

「うん、おかあさん、おとうさん。お早うございます。きゅうにぱちんと真っ暗になったと思いましたら、ゆっくりとここにおりてくる夢を見ました。でも、目が覚めたのに真っ暗なのはなぜなのですか。」

「ぼうや、もうすぐはっきりと見えるようになりますよ。もうすぐ春の風が吹いてきます。それにのってお出掛けしましょう。ですから、しばらくお待ちなさい。」

「ぼくたちはこれからどこに行くのですか。」

「ぼうや、それはね、私たちも知らないけれど、本当はみんなが知っている場所です。」

「それはどこでしょう、ふしぎな場所ですね。風がつれていってくれる場所で私たちはお休みするのですか。」

「ぼうや、私たちは風に乗って誰も知らない場所へ行き、いろいろなことをいろいろな場所で感じるのです。休むことなく、心地良くいろんなことをたくさん感じるためにどこまでも行くのです。」

「じゃあ、おかあさんとおとうさんと離れてしまうのでしょうか。ぼくはおとうさんやおかあさんとはなれるのはいやだなあ。さみしいなあ。」

「大丈夫です、ぼうや。私たちは、何と言うか、そう、とてもとても小さなつぶつぶになって、いろんなことを感じるのです。」

「つぶつぶですか。」

「そう、とてもとても小さくなって、今話しているお母さんやお父さんの気持ちもわかるし、昨日食べた小さな魚たちや雨上がりの朝に殺めてしまったミミズや眠る前に匂いを嗅いだ草花たちの気持ちも分かるようになるのですよ。
昨日寝ころんだふかふかした葉っぱにもなるし、キラキラしたお日様や虹色に輝く朝露にもなるのです。
そして、みんなでみんなの気持ちが分かるようになって、みんなでひとつの大きな風に乗ってどこまでもどこまでも行くのです。」

「うん。」

「ありがとう、ぼうや。では行きましょう。」

音もなく、軽やかに大きな風が不意にやってきて、みんなを乗せて何処かへ流れてゆきました。

春がやってきました。

エッセイ一覧に戻る

文字盤のない時計

2021.10.15

キッチンを作らせて頂くことになったNさんから、時計を作ってほしいと相談を頂いたことがありました。
「時計ですか・・。」
仕事で時計なんて作ることがなかったし、街中すてきな時計やもちろん木でできた時計もある。
いまさら私たちが作ることでNさんにとってどういった魅力があるのか、ということがなかなか当時は分からなかったのです。

「時計といっても、あの時間の数字、文字盤が普通は入っているじゃないですか。それは要らないのです。」
「なるほど・・。」
当時キッチンのほかに円卓、丸い座面のキッチンスツールの製作を依頼頂いていたので、その素材や形状に合わせた時計が欲しかったことと、何よりも文字盤は要らないということが大切なことだったのでした。
「キッチンに立っていて、ふと顔を上げた時に長針と短針がどのあたりを指しているのかがなんとなく分かればいいんです。かえってきちんとした時間が分からなくてよいくらい。」
文字盤のない時計か・・。
当時はなんでだろうって思いながら、同じタモ材を用意してムーブメントを用意して、せめて何となく時間が分かるようにと、目の詰んだ柾目材で作らせて頂きました。(写真の時計は板目ですが・・。)

でも、今になって何となく分かってきました。
全部がひとめではっきり見えてしまうと、全部がはっきりわかるまで物事を進めないといけないという気持ちになったりします。
でも、あいまいなで見えにくい部分があると私たちは自分でイメージして考えるのですよね。
本を読んでいる時に思い描いた風景と、映画で見た時に現れた風景の違いのように。
そういうゆったりした時間の移ろいが、「ああ、そろそろ子どもたちが帰ってくる時間だな。」とか「そろそろ洗濯物取り込もうかしら」とか次を考えるための余裕が生まれるというか。
何というか言葉が足りなくてすみません。
そろそろって思える気持ちに、余裕があるのだなってあらためて思うのです。

日も暮れて鳥たちもだんだん森へ帰ってしまって虫たちが鳴き始めたから、そろそろ寝ないといけないよ。とか、そういう時間の見つめ方っていいなって。時間を見て過ごすのではなく、自分の時間を知って過ごすって。

そういう感じが大切だって思えるようになってきたのです。

エッセイ一覧に戻る

オーダー家具の形は選択肢を広げて

2021.10.14

キッチンや家具をオーダーして作ってもらう機会ってなかなかないことだと思います。

私が中学生だった頃に父がこの仕事を始めたものですから、私にとって家具というのは「買うというよりは作るもの」ということが何となく日常ではあったのですが、普通は購入するものですものね。

今から26年ほど前、私がインテリアと建築の専門学校に通っていた頃でしょうか。

目黒通りが慌ただしくなっていろいろすてきな家具屋さんやインテリアや建築という言葉が日常でよく聞かれるようになり、あのころを境に建築家という言葉や家具をオーダーするということが少しずつ身近になってきたように思うのです。

ちょうど、「インターネットでホームページを作りましょう。」というような番組が教育テレビでちらほら放映されていた頃だと思います。

知らない情報が身近に手に入るという時代の幕開けの頃だったのかもしれません。

私もちょうどその頃にホームページを立ち上げて、少しずつですがオーダー家具というものを身近に知って頂けるようになってきました。

と、話がそれてしまいましたが、今日はキッチンや家具のご相談を頂く時に私が皆さんにお伝えしようと心掛けていることをお話したいと思います。

まずは、オーダーで作ってもらうってなかなか無い機会だと思いますので、ご相談を頂いた時には、皆さんから言われたことを「できます」「できません」とお伝えするだけではなく、なるべく私たちにどんなことができるか、家具にはどんな形があるか、どんな暮らしができるのかというお話をさせて頂いております。

・・・ちなみにまたお話それますが、「できません」とは言わない、という考えってあると思うのですが、私はできないことはきちんとできない、と伝えることも必要だと思っております。このお話もまた今度。・・・

具体的には、「引き出しを作りたいのです。」と言われた時には、使いやすいゆっくり閉まるスライドレールがあるとお話したり、押せば開く引き出しがあるというお話をしたり、コスト重視でシンプルなスライドレールをつけたり、もしくは細工を見せるためにレールを使わない昔ながらの引き出しの作り方をお知らせしたり。そして、それを選ぶことでどんな良いことがあって、どんな悪いこともあってというお話をさせて頂きます。

さらには、それを使うとこういう時間の過ごしかたができて、こういう空間の見せ方ができて、とお話は枝分かれに広がっていきます。

その話を聞いたお客様からも、さらに枝分かれにお話が広がっていって、かえって私自身知らなかったことを教わることもあったりします。

こうして、私たちでできることの広がりというか方法・可能性をすべてお伝えして、その中から家具を使う皆さんにとって、自身の暮らしにとって何か必要なのかをひとつずつ選んでもらうのです。

その選んでいく過程の中で、いつの間にかモヤモヤしていたイメージが整理されて、自分が望んでいるキッチンや家具の形が見えてきたり、暮らしかたが整っていったりするのです。

できます、できません、この中からセレクトしてください、だけでは思い描けなかったことが生まれるのです。

ですので、自分の望むキッチンや家具のかたちを考えていく作業って、いいかえると自分の暮らしを見つめ直す作業だって常々思っているのです。

いろいろな選択肢を示されて、自分はどんなふうにこのキッチンを、家具を使っていきたいのだろう、どう暮らしたいのだろう、自分には何か必要なのだろうって、皆さん時間をかけて悩まれるのですね。

「リビングボードにパソコンデスクを作ろうと思ったけれど、お話を聞いていたら、家でパソコンするよりもスマートフォンを使う時間のほうが多いと気づいて、それならときどきしか使わないデスクになりそうだから、ダイニングテーブルを広げてそこでパソコンやそれ以外の作業もできるように考えたほうがよいかな。」とか、

「小学校に上がる子供のためのデスクを作ろうと思ったけれど、お話を聞いていたら、子供はもっと親のそばに居たいことがよく分かりましたので、みんなで一緒に勉強や作業ができるようにダイニングテーブルを大きくします。」とか、

「イマイさんの家のキッチンの様に子供たちがもう少し大きくなったら、一緒にキッチンに立てるようにみんなで動きやすいキッチンにします。」とか。

そう。お話をしながらみなさん暮らしを見つめ直しているのです。

そして、その作業はとても大切です。

もちろん、見つめ直すと全てがうまくいくというわけではなく、できあがって暮らし始めてから、「ああ、こうする方法でも良かったかな。」と思い返すこともあるのですが、その過程を経てきたことで、自分の今の暮らしがあることのうれしさや大切さを感じられるっておっしゃってくださいます。

それから、打ち合わせが終わってひとつの家具の形が決まると、「あー、おもしろかった。自分の好みを思い描くことで自分の考えがどんどん研ぎ澄まされていくような感じ。」っておっしゃってくださった方もいらっしゃいました。

素晴らしい感覚です。

だから、私が皆さんにお話しする時には、まずどんなことができるかという「手の内を明かす」というのでしょうか。いろいろな道を見せてさしあげることがとても大事なことだと思っているのです。

でもね、いろいろな選択肢をお伝えしてお話がいろいろと広がっていても、結局最初の形に戻るってことが多かったりするのですけどね。

でも、それも見つめ直した結果です。

その結論に至るまでの過程がすべてその人のキッチンや家具の形の現れですから、要望が最初のシンプルな形に戻ったとしても、それはきちんと考えが巡ってたどり着いた先のことですので、最初の思いとは大きく違っています。

目に見えない思いが込められた形はこうして生まれるのです。

エッセイ一覧に戻る